ZOOM UP INTERVIEW
自問自答して言語化することは
1つの人生の指標になる
森田 剛
Photo:平野司
森田剛が主演を務め、巨匠マンガ家のアシスタントを長年務める42歳の主人公を描いた、ちょっと痛くてふっと笑えるヒューマンドラマ『見上げてごらん』が10月30日(金)に公開。本作は是枝裕和監督率いる映像制作集団「分福」の新鋭、森本晶一(初監督・原案・脚本)&佐藤快磨(監督)のダブル監督による劇場作品。
ベテランマンガ家・吉住はるを(武田鉄矢)のアシスタントの土屋輝一は、マンガ家デビューした後輩や、別居中の人気声優の妻・莉花(松本まりか)にモヤモヤし、一緒に暮らす高校受験を控えた娘・ひかり(早瀬憩)ともなぜか気持ちがすれ違ってばかりいる。そんなとき、熱量不足を自覚するマンガ編集者・潮田ユキ(森川葵)とマンガ家を志す猪突猛進な新人アシスタント・山田ぽてと(川上友里)とともにある企画に臨むことになる。
このたび、土屋を演じる森田にインタビューを実施し、作品への想いや撮影秘話、また、土屋のように年齢を重ねた今、チャレンジしたことについて話を聞いた。
出演の決め手は主人公のキャラクター
まず、脚本を読んで、土屋はとても面倒くさい人間ではあるけれど、そこが人間臭くてちゃんと愛を持っているし、とても愛おしくなる男だと感じました。これまで僕が演じてきた役とはちょっと違っているところが新鮮で、言いたいことはあるだろうけど心の内にとどめている土屋が優しくて。じれったく感じる方もいると思いますが、多面的なところがあって魅力的な人物です。出演を決めたのは土屋に惹かれた部分が大きいと思います。
最初に脚本を読んだときはタイトルが違いましたし、お話も違うものでした。リハーサルを重ねていくうちに物語や台詞が変化していって、作り上げたいものの輪郭が見えてきて。それぞれのキャラクターがそれぞれの悩みを抱えていて、生きている。誰もが共感できる作品でありつつ、監督のセンスが光っていて切なさも、ユーモアもあって、ユニークな作品だと感じました。
土屋という人物の面白さ
土屋が最も人間らしいと感じたのは、やはり娘のひかりとのシーンで、そこには嘘がなかったと思います。ちょっとはあるんですけどね、娘に嫌われたくないばかりに(笑)。ただ、土屋にとってひかりは希望の存在であり、ひかりとのシーンは土屋の本心が一番見える場面だと思います。
土屋は他の人には我慢して本心を明かさないので、心の内が読めない人でもあります。かと思えば、口では言わなくても意外と態度に出ていて、変な空気にしてしまったり(笑)、レッドブルをあげて優しい声を出したり、いろんな部分があって演じていてとても面白かったです。

役へのアプローチは?
マンガ家アシスタントの役なので、プロの作家さんにラインの書き方などを教えていただいたり、アシスタント役のみんなで集まってマンガのイラストを描いたりして。難しくてなかなか大変でしたが、教わるときにマンガ家としてのお仕事や生活についてお話を聞くこともできました。
撮影に入る前には監督とスタッフ、キャストの方たちとリハーサルを重ねたんですが、とても身になりました。土屋という人物像や心情を作り上げていくうえで大切な過程だったと思います。
ダブル監督との共同作業について
森本監督と佐藤監督は常に一緒に撮影現場にいて、おそらく僕のところに来る前にお二人で話し合われて、その都度、どちらかお一人かお二人で演出について話してくれて、進行していきました。脚本は森本さんが書いていて、作品には森本さんの人柄が出ていると思います。優しくて愛おしい方なんです。
お二人はお友だち同士で、僕は作品を通して関わらせていただいただけですが、お二人とも柔らかい空気感を持っている方々です。森本さんの演出と佐藤さんの演出では視点が異なっていることも興味深かったですし、ダブル監督ならではのアイディアが掛け合わさってどんどん広がっていく感覚もありました。 ディスカッションされているときも、お互いへの信頼が感じられて、素敵な関係性だと思います。お互いにやりたいことや目指しているものが明確にあって、そこに向かって進もうとする強さを感じました。

森川葵と共演して
森川さんとの共演では土屋が目をこするシーンがすごく印象に残っています。土屋のスイッチが入る瞬間をどこにするか、潮田のリアクションはどのタイミングでどの温度感にするかなど、リハーサルでいろんなパターンをやって探っていきました。
森川さんのお芝居は「ここをそんなに掘るんだ」とか、「ここでそんな顔をするんだ」とか、驚きがあって非常に刺激を受けました。川上さんも交えた3人の共演シーンでもそれぞれの個性がぶつかり合うところをぜひ楽しんでいただきたいです。
自問自答して言語化することが人生の指標に
土屋は「マンガに対して人生を賭けている」とか、「常に考えている」と話していますけど、そこまで追求していれば自分の作品を描き続けているんじゃないかと思います。そもそも成功する星のもとに生まれていない人だと思うので、そこも土屋の愛おしいところです。
他人と比べてみたり、将来が不安だったりすることは誰しもあることだし、「やりたいことって何なんだろうな」とか、「本当にこれがやりたいことなのかな」という気持ちを感じたことがある人は多いと思います。そんな誰しもが抱える悩みがこの作品では描かれていて、それでも生きていくという強さを感じることができました。
僕自身もそういった悩みを感じることは少なからずありましたし、悩む時間や自問自答する時間はとても大事だと思っています。僕はときどき文字にして書き留めていて、見返すことはあまりないんですけど、そのときに言語化することは意味があると思いますし、そこで出てきた言葉は記憶に残って1つの人生の指標となると思います。
壁にぶつかったときは人の力に救われたことも、時間が解決してくれたこともありました。生きていればなんとかなるということも、本作は感じさせてくれます。

土屋のように、年を重ねて挑戦すること
この年にしてできなかったことができるようになる楽しさや面白さは大いにあると思います。僕はスノーボードも40歳を超えてから始めましたし。
この間、釣りを初めて本格的にやったんです。キス釣りだったんですけど、楽しすぎました。「一番底に釣り糸を垂らして、とにかく待つ」って言われたんです、「底を感じて」って。食いつく瞬間がわかるんですよ。後はただ釣り上げるだけなんですけど、楽しかったです。首が痛くなるくらいに集中しました。力の抜きどころがわからなくて全身に力が入っていたんだと思います。あれはハマりましたね。
年を重ねると凝り固まってくるじゃないですか。良い意味でも悪い意味でも好き嫌いがはっきりしてくると言いますか。でも、シンプルなことだと、今まで食べてこなかったものが、食べてみたら意外と美味しいって感動することってあるんですよね。「なんでこんなに頑なに食べなかったんだろう、もったいない」と思うので、今はちょっとでも興味が湧いたらなんでもやってみるようにしています。新しい世界に触れてみることは好きです。

PROFILE
森田 剛(Go Morita)
1979年2月20日生まれ。埼玉県出身。2005年、劇団☆新感線の『荒神~Arajinn~』で舞台初主演を務めて以降、数多くの舞台、映像作品に出演。2016年吉田恵輔監督映画『ヒメアノ~ル』では単独主演を果たし、国内外で高い評価を受ける。他の主な出演作は、『前科者』、『DEATH DAYS』『白鍵と黒鍵の間に』、『劇場版アナウンサーたちの戦争』、『雨の中の慾情』、舞台『みんな我が子』、『ロスメルホルム』、『台風23号』、『ヴォイツェック』、『砂の女』など。10月8日より舞台『僕らの時代じゃない』に出演。
映画『見上げてごらん』
10月30日(金)全国順次公開
主人公は、巨匠マンガ家のアシスタントを長年務める42歳の土屋輝一。マンガ家デビューした後輩や、別居中の人気声優の妻にモヤモヤし、一緒に暮らす高校受験を控えた娘ともなぜか気持ちがすれ違ってばかり。そんなとき、あるマンガ企画が舞い込む。一緒に臨むのは、熱量不足を自覚するマンガ編集者29歳・潮田ユキとマンガ家を志す猪突猛進な新人アシスタント40歳・山田ぽてと。踏み出したその先に、彼らが見出す未来とは……。マンガづくりに携わる迷えるオトナたちの、ちょっと痛くて、ふっと笑える物語。
監督:森本晶一、佐藤快磨
【出】森田剛、森川葵、川上友里/阿部寛、松本まりか、武田鉄矢、早瀬憩(ほか)
映画『見上げてごらん』の予告編をチェック!
Photo:平野司、Text:入江奈々、Hair&Make:AMANO、Stylist:松川 総、衣装:ヴィンテージのパンツ 17,800(KIT VINTAGE)/その他 スタイリスト私物