ZOOM UP INTERVIEW

「鬼平犯科帳」最新作で再タッグ
平蔵の危機を救うために親友が立ち上がる

松本幸四郎×山口馬木也

Photo:平野司

2024年にスタートした松本幸四郎主演・池波正太郎原作「鬼平犯科帳」シリーズが、早くも3年目に突入。2026年1月に、シリーズ最新第7弾「兇剣」がいよいよ時代劇専門チャンネルで独占初放送される。今作では第1弾「本所・桜屋敷」に登場した平蔵の若かりし頃からの親友・岸井左馬之助(山口馬木也)が再登場。映画『侍タイムスリッパー』の大ヒットによって一躍脚光を浴びた山口が今回どのような活躍を見せるのか。主演の幸四郎とのツーショットインタビューで、撮影の舞台裏、そして今も愛される池波正太郎原作時代劇の魅力について語る。

細かい説明がなくてもわかる、目に見えない親友同士の関係性

幸四郎 「本所・桜屋敷」の現場で最初にお会いした時から「あぁ、左馬之助ってこういう人だよな……」という話をしていたくらいで、本当に馬木也さんとご一緒できてよかったと思っています。

山口 うれしいです。こうして幸四郎さんと、平蔵と左馬之助として目線を合わせることができる。そのことに大きな喜びを感じていました。お芝居をしている時は、この気持ちをそのまま持っていれば大丈夫でしたね。自分の中から出てくるものを自然に出していけたらいいなと。

幸四郎 左馬之助は平蔵がまだ「本所の銕(てつ)」と呼ばれていた頃からの親友ですから、今に至るまでにお互いにそれぞれの人生、それぞれの歴史がある。すごく特別な存在だと思います。きっと、「言葉ではないなにか」で会話できる関係性。息の合った親友同士の目には見えない部分を映像として伝えたいということは意識しましたね。

山口 左馬之助が駆けつけた時の、平蔵のリアクション。シビれました。あれこそが、セリフはなくても伝わってくるものなんだろうと思います。特に細かい説明がなくても、私たちの顔や目線を見れば一発でわかる。やっぱり素敵だなぁ……そんなことを、いつも幸四郎さんの隣で考えていました。

幸四郎 私は、時代劇を作るための世界一の職人が集まる京都の撮影所で、この「鬼平犯科帳」という作品を演じることができることも幸せに思っています。

(撮影所の熟練のスタッフたちによる見事な仕事ぶりが作品を引き締めてくれる、と2人は口々に語る)

幸四郎 京都の撮影所の門をくぐる時はいまだに心がたかぶるのですが、この気持ちは忘れたくないですね。いつもスタッフの方々の声が飛び交っています。チームワークはもちろん良いですが、だからと言って仲良く馴れ合っているわけでもない。「面白いドラマを作るんだ」、という気持ちがあるからこそ生まれるこの緊張感を大切にしたいですね。

山口 殺陣師は第1弾の「本所・桜屋敷」からずっと清家三彦さんで、『侍タイムスリッパー』で殺陣をつけてくださった清家一斗さんのお父さまです。今作の大立ち回りのシーンをその清家さんとキャメラマンの方が、私たち役者が休憩に入っている間の15分ほど、その場で話し合いながら、テキパキと流れを組み立てていくのを見ていました。けっこう長い立ち回りでした。幸四郎さんも一緒に聞いていましたが、ほとんどスタッフの方にお任せという感じで特に口を出すこともありませんでした。いざ本番で、幸四郎さんはその複雑な段取りをいとも簡単に演じて、もちろん一発OK。まさにプロフェッショナルの世界です。京都のスタッフのみなさんは、「ツーと言う前にカーと言う」みたいなところがあるんですよ。見事な作品が目の前で、あっという間に形作られていく、あのスピード感には本当に圧倒されますし、その舞台裏を時代劇が好きなみなさんにもぜひ見ていただきたいと思うくらいです。

幸四郎が繰り出す日本一の立ち回りが生まれるその秘密は……?

山口 ご本人の目の前で言うのは少し照れくさいのですが、私は幸四郎さんを俳優としても人間としても、心から尊敬しています。私にしてみれば、幸四郎さんは日本一の立ち回りをされる方だと思っています。

幸四郎 ぜひ見出しに書いてもらいましょう(笑)。

山口 そんな幸四郎さんが現場に入られる前に、立ち回りの合宿をされているんです。私と幸四郎さんは年齢は同じですが、芸歴としては幸四郎さんのほうが2倍ほどあって、それだけたくさんのご経験をされている。そこまでのキャリアがあって他にやることある? と思ってしまうくらい。でも、足りないと思うものがご自身のなかにあって、それを常に追い求め続けている。

幸四郎 もちろん私としても、なにもしないで現場に入って、そのまま動けるのが理想ですよ。でも、できない。できないから、やるしかない。

山口 ……ということなんですって。その姿勢、私は到底かなわないですね。

幸四郎 やはり撮影に入る前に自分の技術をちゃんと確認したい、というのがその理由です。特に今作は、平蔵がいつも着ている火事装束のほかに、着流しで立ち回りをする場面が多かった。さっき馬木也さんが仰ったように、立ち回りは現場で作っていますから、どう自分が動けば着崩れるのか、どうしたら破れるのかなど、どんな殺陣になってもいいような状態にしておきたい。かつらもそうです。立ち回りの時はつけ方を変えています。動きが激しいとズレてしまいますからね。事前にあれこれ試す時間を作っていただけること自体、とてもぜいたくでありがたいお話です。

山口 合宿だけじゃないです。マネージャーさんから聞いたのですが、幸四郎さんは台本以外に、ものすごい量の資料を撮影所に持ち込んでるいると。

幸四郎 ……え、なに? よく聞いてなかった(笑)。

山口 ほら、こんな感じでまったくそんな素振りを見せない(笑)。私はそういう幸四郎さんのひょうひょうとした佇まいに奥行きを感じるんです。「鬼平犯科帳」はもちろん、「剣客商売」や他の池波正太郎作品には共通するユーモアがあって、それが幸四郎さんの雰囲気とすごく合っている。すごく粋なんですよね。大きな器を逆さにして、底の部分でお酒を飲むようなイメージです。少し語弊があるかもしれないですが、私は、時代劇はオシャレなものだと思っているんですよ。

幸四郎 「時代劇といえば鬼平」とよく言われますが、それ以前に人間ドラマです。「鬼平犯科帳」という大きな器に私たちがいて、同心や密偵たちがいて……今までのエピソードで出来上がったこのチームの関係性をしっかりと掘り下げていきたいですね。善人にも悪人にも、それぞれの人生があって、人間味がある。平蔵自身も誰かを悪人だから悪いとか、善人だから良いとか、決めつけることは絶対しない男なんです。人と正面から向き合っていきます。それこそが、いつの時代でも受け入れられて、なにかを感じてもらえる部分なのでしょう。これからも数を重ねていくことが、作品を愛してくださる方々へのなによりの恩返しになるのではないかと思っています。

松本幸四郎主演「鬼平犯科帳」待望のシリーズ最新第7弾
平蔵と左馬之助の最強タッグ再び!

第1弾「本所・桜屋敷」以来およそ2年ぶりに、山口馬木也演じる長谷川平蔵の親友・岸井左馬之助が登場。平蔵と左馬之助の無二の友情を描く。2人の立ち回りシーンは目が離せない最大の見どころだ。

©日本映画放送

シリーズ最新作を独占初放送

長谷川平蔵(松本幸四郎)は同心・ 木村忠吾(浅利陽介)を伴い、父・宣雄の墓参のため16年ぶりに京都を訪れた。墓参を終えた平蔵と忠吾は 宿に向かう道中、ならず者に追われる物言わぬ娘・およねを助ける。平蔵は、京都西町奉行所の与力・浦部彦太郎(内藤剛志)を頼り、奉行所に彼女を預け、奈良へ発とうとするが、およねは突然、平蔵に同行を懇願する。奈良に向かう平蔵一行に大盗賊・高津の玄丹一味の魔の手が迫る。

©日本映画放送

PROFILE

松本幸四郎(KOSHIRO MATSUMOTO)

1973年生まれ。1979年に初舞台を踏み、舞台『アマデウス』(1995年)、映画『阿修羅城の瞳』『蟬しぐれ』(2005年)など、歌舞伎のみならず、多くの作品に出演している。2018年に、十代目松本幸四郎を襲名。2025年は三谷幸喜の作・演出による歌舞伎座公演『歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン) 幕を閉めるな』も大きな話題となった。

山口馬木也(MAKIYA YAMAGUCHI)

1973年生まれ。1998年に俳優デビュー。2003年からドラマ「剣客商売」シリーズに藤田まこと演じる主人公の息子役として出演して以来は時代劇への出演も多く、長編映画初主演を務めた『侍タイムスリッパー』(2024年)が大ヒット。同作で日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など多くの賞を受賞した。2026年にはNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』、2月27日公開予定の映画『木挽町のあだ討ち』への出演を控える。

鬼平犯科帳 兇剣

1月10日(土)後1.00~3.00 【再】=10・31

時代劇専門チャンネル

放送年・キャスト

26年【出】松本幸四郎、山口馬木也、浅利陽介、中村ゆり、和田聰宏、三木理紗子、趙珉和、杉山恵一、國本鍾建、渡辺いっけい、内藤剛志(ほか)

Photo:平野司/Text:真鍋新一/ヘアメイク:鶴﨑知世(松本幸四郎)、石部直子(山口真木也)/スタイリスト:川田真梨子(松本幸四郎)/衣装協力:ヨウジヤマモトプールオム/ヨウジヤマモト プレスルーム

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