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日本国内から海外まで、知る人ぞ知る魅力的な旅先をご紹介。あなたがまだ見ぬ景色や旅行体験をお届け。

【コラム】世界旅情記
『オーストラリア(オセアニア)マレワ』

夏が過ぎ、秋の気配が漂う9月ですが、反対に寒い冬から緑あふれる春を迎えるのが南半球です。特にオーストラリア西部は野生の花が一斉に満開を迎える、ワイルドフラワーが有名。彩りを頼りに「マレワ」という町を訪ねました。

一万種が咲く、春の祭典

 オーストラリア最大の都市シドニーから国内線に乗ること約5時間で、やっと西端のパースにたどり着きます。パースは世界で住みやすい都市ランキングの上位に挙がるほど、自然と都会が調和した場所です。市内バスは無料で利用でき、観光名所のキングスパークは春になるとワイルドフラワーフェスティバルが開催されます。まるで植物園のような公園では多彩な品種を一挙に見ることができ、カンガルーの前足に似ていることから名付けられたユニークな固有種も多く、時間を忘れて見入ってしまいます。

リースフラワーと呼ばれる幻の花

 ただ、せっかくならワイルドフラワーという言葉の通り、野生で育つ花々に出合いたいと色々と調べてみたのですが、場所など詳しい情報がまったく見つかりません。これは現地に行かないと分からないと思い、手がかりがないままレンタカーでパース郊外を巡ることにしました。

看板にも住所にもない絶景

 パースから出発して数日、目にするのはまっすぐに伸びた道と両サイドに広がる赤土の大地だけ。空に雲はなく、本来なら生命に恵みを与える太陽も、ここではその命さえも奪ってしまうほど強烈です。さらに100km以上運転しても対向車と全然すれ違わないことが当たり前。初めて車の走行可能距離が200kmを下回り、このまま給油できずにガス欠になったらどうしようかと不安になりました。

赤土と青い空が映える景色

 しかし、灼熱の大地を走っていると突如、満開の花々が出現します。1本1本は細く儚げなのですが、負けじと集団となって咲き誇る姿が凛々しいです。看板はなく、何気ない道端で見られる景色。特別ではないかもしれませんが、植物だけでなく人間にとっても過酷な土地だからこそ、必ず春になれば芽が出て花を咲かせるワイルドフラワーに元気をもらったのは私を含め、少なくないはずです。

車道を残して広がる植物の王国

 旅の後半、パースから約450km北に位置するマレワを訪れ、ワイルドフラワーの名所を住民に教えてもらいました。住所はなく、地図に大まかな印をつけてもらった場所に行ってみると、目の前には色とりどりの草花が大地を埋め尽くしていたのです。その光景はまさに百花繚乱。植物のたくましさ、美しさに励まされた旅のフィナーレを飾るのにふさわしい光景でした。

辺り一帯が春らんまんのマレワ
無音に包まれる幻想的な世界
黄と青で織り成す春のカーペット

PROFILE

浅井みら野(あさいみらの)

アメリカの大学で国際関係とジャーナリズムを学び、卒業後は日本の旅行会社で法人営業を担当。その後、旅行関連のカメライターとして、日本全国、世界各国を訪れ、まだ知られていない土地の魅力をご紹介。

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