ZOOM UP INTERVIEW

美しくも残酷な愛の物語で妖しき「謎の男」を怪演

高橋一生

Photo:平野司

旅人の足元にまとわりついて、転ばせる――。岡山に伝承される妖怪「すねこすり」をモチーフに、美しくも残酷な愛を描く『脛擦りの森』(すねこすりのもり)。「岸辺露伴は動かない」シリーズの渡辺一貴監督が、高橋一生と再びタッグを組んで手がけた自身初となるオリジナル作品だ。「岸辺露伴」シリーズでも手腕を発揮した柘植伊佐夫が人物デザイン監修・衣裳デザインを担当。同じく同シリーズの梅沢壮一が特殊メイクを手がけた。岡山の森や美しいロケーションの数々からインスピレーションを得てつむがれた本作において、「謎の男」を圧倒的な存在感で怪演した高橋一生に、渡辺監督との再タッグや本作への想いについて聞いた。

「『脛擦りの森』は、怪異が伝承化する、その“ことの起こり”のようなものを描いている作品」

「すねこすり」は子どもの頃に水木しげるさんの漫画で読んで知って、一番得体がしれなくて好きになりました。「転ばせるだけって、どんな意味があるの?」と思って、存在意義がなさそうな妖怪にシンパシーを感じたんです。

怖い話とは尾ひれ葉ひれがついていって、伝承されていくなかで少しずつ変わっていく。『脛擦りの森』は「すねこすり」に対して新たな解釈をしたものですが、「すねこすり」という存在の物語が生まれるときに、実はこういう話があったんじゃないか、と感性を刺激してくれる静寂に満ちた物語。怪異が伝承化する、その“ことの起こり”のようなものを描いている作品だと感じています。

「役柄としての背景はありますが、それをあえて説明することはせず余白として観る方に委ねています」

ちょうど“老い”というものが始まりかけている僕が、いま、思いっきり“老いた人”を演じたらどういった反応になるのかは自分のなかでも実験でした。「歳をとったら、本当に動けなくなるのかな?」というところから今回の“老人像”はスタートしました。

“老い”には<心>の在り方が強く関わっているので、今回のような超越した時間が流れる山深い世界で、もし腰が曲がったり動けなくなったりしたら、ある意味、山に飲み込まれてしまう。そのことに抗いつつも調和している老人が、月日を経るなかでどうなっていくのかということは自ずと考えました。これは役作りということではなく、ただ事実として「脛擦りの森」で生きていくことを想像するに、こんな風になっていくんだろうなということを感じながら“老人”をやってたような気がします。

僕が演じた「謎の男」は、一言で例えるなら“迷い込んだ人”。役柄としての背景はありますが、それをあえて説明することはせず余白として観る方に委ねています。もともと役作りをあまりしないのですが、今回は人物デザイン監修・衣裳デザインの柘植さんが構築された“場”が与えてくれるものを大切に、監督である渡辺一貴さんの純粋な世界観を形にしていくような感覚でした。

「お芝居をする前に演技の方向性の確認はしません。芝居で提示するのが役者だと思っているので」

一貴さんとは大河ドラマ「おんな城主 直虎」からはじまり、「岸辺露伴は動かない」シリーズほかもう10年来の付き合いです。僕はもともとお芝居をする前に演技の方向性の確認はしません。芝居で提示するのが役者だと思っているので。

一貴さんもまずは役者に任せてくださる方ですし、基本的には言葉で説明して補完しなければいけないようなことは、たぶんお互いあまり好きではないはず。本当に優れた演出家の方は、演出の役割の最初の部分が交通整理であることを理解されている方だと思っています。だから今回も一貴さんとはあまり演技の話はしなかったです、それはこれまで通り。

特殊メイクも楽しかったですよ(笑)。顔だけでなく首や指、腕は肘くらいまで人工の皮膚を付けているんですけれど、担当の梅沢さんが表情をちゃんと作れるようにしてくれて。最初は芝居の邪魔にならないかと懸念していましたが、技術が素晴らしくてまったく負荷がかからず。梅沢さんの技術には毎回感心するのですが、今回は改めて驚きました。このごろの作品は特殊メイクではなくCG処理にすることも多々ありますが、完成した『脛擦りの森』を観て、手間ひまかけてアナログで“氷点下の環境で白い息を吐いている老人”を映すことの説得力を実感しました。

過去に他の作品で“老人”の役を演じたときは、身体にテープを貼ったり輪ゴムを巻いたりして可動域を制限していたのですが、今回はそうしなくて済んだ。皮膚を付けている感覚が常にあるので、若者のような動き方はできないんだと常に意識していられて、とても助かりました。また実は、特殊メイク後の顔が僕のおじいちゃんにそっくりでした(笑)。

「穴門山神社や宇山洞ならではの静謐な雰囲気が、演じる上で最後の一押しになりました」

台本を読んだ第一印象は、現代の「日本昔ばなし」だな、でした。子どもの頃、毎週楽しみにしていましたが、「日本昔ばなし」には幾通りの解釈ができるような“余白”がある。僕の大好きな話は「吉作落とし」で、吉作という主人公が崖に生えている岩茸を採りに行って、降りることも登ることもできなくなって、最後には飛び降りて亡くなるという話なのですが…。

子供心に「僕は何を観せられているんだろうか」と、衝撃的でしたね(笑)。あの物語には寓話性と、人と共有できない僕にだけのメッセージが込められているような気がしました。今を生きる現代の人々にとって、ああいう恐怖は必要なんだと思います。

日本はもともと、自然界のあらゆる現象やすべての物に神が宿るという「八百万(やおよろず)信仰」があって、その概念をもとに作られた物語が何百年も前から受け継がれ、そこには想像する余白と、人を思索に導く説教臭さのないインパクトが秘められている。僕からしたら、日本の山々を舞台とする伝承や怪異の話というものは、とても怖くて、とても美しい世界(笑)。この美しかったり怖かったり、抜け出さなきゃいけないのに抜け出せないという怖さは、日本独特のような気がしています。『脛擦りの森』もそういう話なんです。

山好きながら、本作の舞台となる岡山の山々を体験したことがなかったのですが、閉ざされている山の在りようが独特の環境を作りだしていて、場所自体に力がありました。ロケ地となった穴門山神社や宇山洞は、歴史ある由緒正しい場所。あの土地ならではの静謐な雰囲気が演じる上で明らかに影響を与えてくれて、僕にとっての最後の一押しになりました。

この『脛擦りの森』にも恐怖と隣あわせでないと感じられない美しさが描かれています。劇場の大きなスクリーンであの静謐な森に迷い込んで、娯楽性と寓話性から生み出される独特の感覚を体感してもらえたら嬉しいです。

PROFILE

高橋一生(ISSEY TAKAHASHI)

1980年12月9日生まれ。数多くの映画・ドラマ・舞台に出演し幅広く活躍。待機作として『ラプソディ・ラプソディ』が5月1日に公開予定のほか、連続ドラマ『リボーン ~最後のヒーロー~』(テレビ朝日系)が4月スタート。

『脛擦りの森』の予告編をチェック!

Photo:平野司 Text:足立美由紀 Hair&Make:田中真維(MARVEE) Styling:秋山貴紀(A Inc.)

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