ZOOM UP INTERVIEW
80代を迎えてなお、新たな気持ちで向き合う
魅力的な人々と作品に恵まれた第9作
北大路欣也
Photo:平野司
家督を息子に譲り穏やかな隠居生活をおくる前藩主用人がさまざまな事件を解き明かしていく、藤沢周平原作のオリジナル時代劇シリーズ「三屋清左衛門残日録」。最新第9作『三屋清左衛門残日録 永遠(とわ)の絆』が時代劇専門チャンネルで放送される。今回は主演の北大路欣也に、まもなくシリーズ放送開始から10年を迎える心境を聞いた。
10年経ってようやく少し追いつけた、”三屋清左衛門”という人物の大きさ
最初に「この作品に出ませんか」とお話をいただいた時、清左衛門が私よりもずっと高いところにいるように見えて、とても追いつけないんじゃないか、と思っていました。なので、私が70歳になるまで待ってほしいとお願いをして、それで始まった作品なんです。そして今、82歳。毎年のように撮影現場で清左衛門として過ごす時間があり、「これでようやく少しは追いつけたかな……」と思えるようになりました。清左衛門は、今でも私にとって憧れの存在です。「この人の魅力をどうにかして体現したい」という気持ちと、「人様に迷惑をかけないように静かな老後を送りたい」という私自身の希望が絡み合いながら、この役ができているような気がしています。本当に「こんな素晴らしい人がいるだろうか?」というくらい素敵な人物です。
(シリーズ第1作『三屋清左衛門残日録』が放送されたのは2016年。それから今回の第9作まで、10年近くもシリーズが続いた理由はどこにあったのだろうか。)
それはひとえに時代劇を愛してくださる方々のおかげです。その人たちのおかげで私らが存在できているのだと思います。昨年に引き続き、今作でもJ:COM加入者のみなさんをお招きしたファンミーティングを開いていただきました。私らの気づかないところにも、愛を持って時代劇の面白さを受け止めてくださる方々がたくさんいらっしゃった。それは本当に貴重なことだと思います。みなさんの気持ちは、我々の現場にちゃんと伝わってきているなと、ハッキリと感じています。なぜなら、撮影現場の雰囲気がすごくいいからです。
いただいた台本を読むと、そこにいろいろなことが書いてあります。そこがどんな場所で、どんな情景なのか。どんな風景が広がっているのかなど、楽しく想像を膨らませながら実際に撮影所へ行くと、本当に台本に書いてある通りにセットができていて、ロケにもたくさん行きました。一目見ただけで「なるほど!」と言いたくなるような場所で撮影すると、その場に立っただけで感動するほどです。そんな私らが現場で感じている想いが作品になって、画面を通してみなさんのところへ届いている。目には見えないことなのですが、本当に素晴らしいことですよね。作品を重ねるたびに、いつも私はそれを強く実感しています。
最近は、テレビや映画で新しい時代劇が作られることが珍しくなってきたので、よく「時代劇の魅力はなんですか?」という質問をされることがあります。ところが私は、少年時代は、左の腰には時代劇の刀、右の腰には西部劇のピストルと、両方のおもちゃをつけて遊んでいました。そんな頃にいろいろな映画をたくさん観て育ってきたので、実は作品のジャンルというものをあまり意識したことがないんです。時代劇だからとか、現代劇だからとかではない。時代劇でも、そこにいるのはその時の今を生きている人間ですよね。大事なことは、今か昔かではなくて、その人物たちが作る、人間ドラマとテーマの魅力、という気がします。
「時代劇が好き」というのは、おじいちゃんやおばあちゃんのことを思うのと同じことだと思うんです。時代劇を観るとき、「そうなのか。昔はこうだったんだ」と考えながら観るでしょう? 作っている人も、お芝居をする人も、同じようにそう思いながらやっています。

誰かの気持ちになって、自分の人生だけでは経験できない視点を学ぶ
(今回も清左衛門の親友であり理解者である佐伯熊太役の伊東四朗をはじめ、レギュラー出演者が引き続き出演。登場人物たちの家族のようなあたたかいやりとりが今回も見どころのひとつとなっている。)
憧れの気持ちは、清左衛門本人に対してもそうですし、藤沢周平先生の世界観にもあります。伊東四朗さんが演じてくださる熊太や、清左衛門の周りの人たちがみんな、決して自分本位な人間ではない。根っこのところにいつもやさしい心を持っているのが見ているだけでわかります。もちろん自分本位で悪い人たちも出てきますが(笑)、そこのバランスがドラマ全体ですごくうまく取れている。演じながら、清左衛門の考え方や生き方から、たくさんのことを教えてもらっています。そこには自分の実人生だけでは経験できない視点がたくさんあります。みなさんも同じだと思いますよ。誰か、他の人の気持ちになってものを考えてみてください。そこで何かを感じ取れるだけの容量を、自分自身のなかにちゃんと作っておかないと、と思います。どんなことでも、感じるのは他でもない自分自身なのですから。
四朗さんと初めてお会いしたのは1981年なので、もう45年近く前になります。「男子の本懐」(1981年)というNHKのドラマが最初の共演です。それからさらに「銭形平次」(1991~98年)で10年近くご一緒して……という長いお付き合いです。出会ってからずっと、一緒にいるだけで四朗さんの存在が私の心をほぐしてくれるような気がしていて、なにか特別なことをしようとしなくても、自然に入っていける。四朗さんとのやりとりは、私たちの関係がそのままにじみ出ているような気がします。
懐かしい仲間との再会、若いキャストとの新たな出会い……ゲスト出演者たちの印象
(そして本作のゲストには藤岡弘、がシリーズ初参加。前作(第8作『三屋清左衛門残日録 春を待つこころ』)に息子である藤岡真威人が出演した縁もあって今回の出演が実現した。)
藤岡弘、さんは以前、『徳川剣豪伝 それからの武蔵』(1996年)というドラマでご一緒しました。私が宮本武蔵を演じ、藤岡さんが柳生十兵衛を演じて、すごい迫力の立ち回りをしたんです。それからほぼ30年ぶりにお会いしたのが作年(2024年)のことでした。前作の撮影現場にお父さんが見に来てくださって、うれしくて抱き合って喜んで、「いやぁ、立派な息子さんですね!」という話をしていたんです。そうしたらなんと、今回はお父さんも出てくださった。そういうご縁があるのもシリーズが続いているからですよね。そして、こうして何十年経ってもお互いに元気な身体でお仕事ができている。本当に幸せなことだと思います。
(前作に引き続き、今回も清左衛門は困難な状況に陥った若者たちに手を差し伸べる。佐藤流司と山谷花純という若いキャストとの共演も、大きな刺激になったそうだ。)
何度も同じ役を演じていても、やっぱり撮影の初日というのはドキドキします。若い役者さんたちは動きもすごいし、リズムもいい。お芝居をしながら「あぁ、この人はこういう反応をするんだ。なるほど」や、「私もこのリズムに合わせたほうがいいのかな」といった、いろんなことを思いながら、今回も新たな気持ちでお仕事をさせていただきました。私が演じていて感じたように、ご覧になる方は心が洗われるような気持ちになっていただけたらうれしいですね。
歳をとると、昔のことをよく思い出すんです。撮影で、京都のいろんな場所へロケに行くのですが、そこが小学生の頃の遊び場だったりするのです。「うわぁ、久しぶりだなぁ!」と懐かしくてたまらない。京都は僕のふるさとですから。こうしてまたふるさとに帰ってこられること。そこで新しい作品が作れること。「三谷清左衛門残日録」という作品には、いつも素晴らしい贈り物をいただいているような気分です。

清左衛門の優しさと強さで絆を紡ぐ珠玉の最新作
『三屋清左衛門残日録 永遠(とわ)の絆』
藤沢周平の傑作小説を原作に、老境の人間模様を温かな視点で描くオリジナル時代劇シリーズ「三屋清左衛門残日録」。今回の物語の核を担う若き夫婦役として、佐藤流司と山谷花純が出演。
清左衛門(北大路欣也)は亡き妻の墓参の帰り、小さな墓前に立ち尽くす若い夫婦、結城友助(佐藤流司)と妻・はなえ(山谷花純)に出会う。二人は幼い息子を亡くし、深い悲しみに沈んでいた。一方、富商・能登屋(上川隆也)の支援を受け進められていた藩の開墾工事が突如中止に。その指揮を執っていた佐伯熊太(伊東四朗)の旧友・榊甚左衛門(藤岡弘、)が切腹したとの報せが届く。清左衛門と熊太は榊の死に疑問を抱き、その真相を探り始める。そんな折、藩が倹約令を出す。それは友助、はなえの生活にも暗い影を落とし、やがて二人の身にある事件が起こる。清左衛門がたどり着いた悲しき真相とは――。「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」

PROFILE
北大路欣也(KINYA KITAOHJI)
時代劇スターとして活躍し、大河ドラマ「竜馬がゆく」(1968年)などに主演するいっぽうで現代劇にも積極的に出演。代表作に映画「戦争と人間」(1971、73年)、「仁義なき戦い 広島死闘篇」(1973年)、「八甲田山」(1977年)など。近年の出演作はドラマ「三匹のおっさん」(2014~2019年)、「刑事7人」(2015年~)、「さすらい署長風間昭平」(2003年~)シリーズなど。
三屋清左衛門残日録 永遠(とわ)の絆
3月7日(土)後7.00~9.00 【再】=8・22
時代劇専門チャンネル
放送年・キャスト
25年【出】北大路欣也、優香、松田悟志、小林綾子、佐藤流司、山谷花純、上川隆也、佐野史郎、池田鉄洋、藤岡弘、、金田明夫、麻生祐未、伊東四朗(ほか)
Photo:平野司 Text:真鍋新一