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【コラム】世界旅情記
『北関東 渡良瀬遊水地』

ふわっと宙に浮いたら、そのまま青空へとまっしぐら。気球が離陸する瞬間は驚くほど静かで軽やかです。栃木、群馬、埼玉、茨城の4県にまたがる「渡良瀬遊水地」では、年間を通して気球による空の旅を楽しめます。

日本で一番自由な空

 3,300haの敷地面積を誇る、渡良瀬遊水地。東京ドーム約700個分の広さは遊水地として国内最大級です。もともとは周辺を流れる河川の水量をコントロールするために設けられましたが、自然豊かな環境は植物や渡り鳥の貴重な楽園となり、国際的にも重要な湿地としてラムサール条約に登録されています。開放的な環境は生きものだけでなく、私たち人間に対しても。水上のカヌーや陸上のロードバイクなど、ありとあらゆるスポーツが盛んに行われ、それは気球を含むスカイスポーツも同じ。ここでは一年中、空を飛ぶことができるのです。

▲遊水地に生える、ヨシ(アシ)

 気球のフライト体験はインターネットから簡単に予約ができ、集合時間は日の出時刻の少し前。空気は凛としていて、この冷たい状態が1日の中でも風が最も穏やかで、飛行に適しているといいます。出発地点に到着すると、ぺったんこな気球に空気を送り込んでいる途中で、ゆっくりと丸くなっていく様子にこちらの期待も膨らみます。

▲続々と膨らんでいく気球

▲空と大地が広い、関東平野

地上から1000m離れた世界へ

 いよいよ気球が十分に膨らみ、私たちもバスケットに乗り込んだら出発です。カウントダウンと同時に離陸すると、まるでエレベーターのように静かに空へと上がっていきます。飛行機の滑走で感じる抵抗感はまったくなく、あまりにも穏やかすぎるので空に向かって飛んでいくというより、海の中を浮かび上がっていく感覚に近いです。それでも徐々に高度が上がっていくと、足元の田畑や民家はどんどん小さくなり、見上げていた空も目線と同じ高さに。時おりバーナーの燃える音が聞こえるだけで、太陽の光を浴び、今、まさに目覚めようとする世界は静かな美に包まれていました。

▲気球内の空気を温めるバーナー

▲朝空を彩るカラフルな気球

▲思わず吸い込まれそうな下界の景色

▲まるでジオラマのような景色

▲日本一大きなハート型の谷中湖

 気球の進む方向は風まかせで、PUKAPUKAでパイロットを務める藤田雄大さんは巧みに風を読み、高度を調節しつつ着陸地点を見定めていきます。地上から車で追随する奥さまの華菜子さんと無線で頻繁に言葉を交わす姿は、チームプレーそのもの。競技を行う際も空と地上のチームワークは欠かせないのだとか。12月12~14日の3日間、渡良瀬遊水地では栃木市・渡良瀬バルーンレース2025が開催予定。この青空を舞台に美しくも熱い空中戦が繰り広げられます。

▲着陸に向けて徐々に高度が低下

▲河川敷で最後は無事に着陸

PROFILE

浅井みら野(あさいみらの)

アメリカの大学で国際関係とジャーナリズムを学び、卒業後は日本の旅行会社で法人営業を担当。その後、旅行関連のカメライターとして、日本全国、世界各国を訪れ、まだ知られていない土地の魅力をご紹介。

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