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【コラム】世界旅情記
「日本(香川県)瀬居島」

気鋭の現代アートがお披露目される、瀬戸内国際芸術祭。6回目となる2025年、新たに瀬戸大橋エリアの会場となった「瀬居島(せいじま)」へ。開催の1か月前、そこには島の風景に呼応し、真摯に作品に取り組むアーティストの姿がありました。
参加する芸術家は200組以上
香川や岡山の離島だけでなく沿岸部で開催される瀬戸内国際芸術祭は全17エリアにおよび、瀬戸内全体がさながら大きなひとつの美術館となります。約100日間におよぶ開催期間は春、夏、秋の3会期に分けられ、春に開催された瀬戸大橋エリアに瀬居島は含まれます。もともとは離島でしたが、1960年代にコンビナートの開発で土地が埋め立てられ、小さな島は香川県本土と陸続きに。さらに世界有数の海上橋が架かったことで本州と四国の距離は一気に縮まり、人や物の移動が活発になりました。

今回、瀬居島全体のアートプロジェクトを担ったのが、アーティストの中﨑透さん。島で育まれた色濃い地域文化と経済成長を支えた工業地帯の両方が島に共存している独特な風景を初めて見て、「瀬戸大橋の巨大な橋げたを抜けた先にコンビナートが広がり、さらにその奥に進むといきなり海と集落が現れます。色々な経緯をたどり、紆余曲折を経た今の島の状況をひっくるめて見たら『余計なものなどない』と感じたのです」と中﨑さん。その時の経験からアートプロジェクトは1990年代の楽曲にちなみ、「SAY YES」と名付けられました。

島の魅力をアートと共に
中﨑さんは島に暮らす住民にインタビューを行い、その土地の物語が感じられる物と言葉を巧みに織り交ぜた作品を制作。すぐ隣には閉校した中学校があり、そこでもアーティストたちが開催に向けて創作活動に励んでいました。会場が中学校という珍しい環境下で、太陽の向きを考えて作品の配置を調整したり、学校の景色と作品とのバランスを吟味したりと、試行錯誤の姿が印象的です。中﨑さんの想いに応え、この場所でしか見られない作品づくりを全員が成し遂げようと緊迫と情熱が混ざる、開催前の貴重な瞬間を目撃できたのは光栄でした。




プロジェクト名にもなった「SAY YES」の歌詞には「愛には愛で感じ合おうよ。硝子ケースに並ばないように」と続きますが、瀬居島のアートプロジェクトもまさにその土地に赴いて感じ合うからこそ、作品が放つ世界観に引き込まれます。瀬居島の会期は終了しましたが、燦々と太陽が輝く8月、いよいよ瀬戸内国際芸術祭の夏会期が始まります。
PROFILE
浅井みら野(あさいみらの)
アメリカの大学で国際関係とジャーナリズムを学び、卒業後は日本の旅行会社で法人営業を担当。その後、旅行関連のカメライターとして、日本全国、世界各国を訪れ、まだ知られていない土地の魅力をご紹介。