ZOOM UP INTERVIEW
親子以上に歳が離れた2人の男の
過去と現在が織りなすヒューマンドラマ
舘ひろし×眞栄田郷敦
Photo:平野司

孤独な少年・幸太を失明の危機から救った漁師のおじさんは、元ヤクザだった――昨年の『帰ってきたあぶない刑事』も大きな話題となった舘ひろしの最新主演作は、『ヤクザと家族 The Family』『パレード』に続いて藤井道人監督とのタッグを組んだ骨太のヒューマンドラマ『港のひかり』。そして、眞栄田郷敦が12年の時を経て主人公のもとにやってきた幸太の成長した姿を演じる。さらに日本映画界を代表するキャメラマン・木村大作の参加や、能登半島地震が発生する直前に行われた輪島と富山での長期ロケなど、今年の注目作である本作の舞台裏を2人に伺った。
企画始動から3年――舘ひろしが抱く映画制作への強い想い
舘ひろし(以下、舘):この映画はもともと、僕が『ヤクザと家族 The Family』でご一緒した藤井道人監督とどうしてももう一度お仕事がしたくて、3年前に亡くなった、スターサンズの河村光庸プロデューサーに持ちかけた話でした。僕はどうしてもヤクザという役にこだわりがあって。その希望をもとに藤井監督に脚本を書いていただいたのがこの映画です。
(石原裕次郎が設立し、渡哲也らが所属した石原プロモーションのメンバーとして、舘は長年活動してきた。その石原プロは2021年に解散。新たに「舘プロ」を立ち上げ、石原や渡が持ち続けていた映画制作の夢を引き継いだ。本作でも制作プロダクションのひとつとして舘プロは名を連ねている)
舘:映画を作り続けることは僕自身の夢でした。今回は僕が希望した企画ということもあってストーリー作りの段階でかなり意見を出しましたし、僕が演じる三浦という男が助けた盲目の少年がやがて成長し、その役を眞栄田くんが演じてくれると決まった時点で「これはもっと面白くなるぞ」と思って、僕と眞栄田くんのパートを増やしてもらったりもしました。
眞栄田郷敦(以下、眞栄田):本当に面白い現場でした。藤井監督の作品は『ヤクザと家族』はもちろん、他の作品も拝見していていつも骨太で見ごたえがあると思っていました。どのキャラクターも魅力的で、自分もそのなかのひとりを演じることができるという喜びがありました。幸太は、おじさん(舘ひろし演じる元ヤクザの三浦)のことをどう思っているのか。幸太が成長して大人になるまでの12年間にどんなことがあったのか。脚本以上に役柄を詰めていくための調整も細かく監督としましたので、映画では直接描かれない部分も背負って演じることができていればと思います。
舘:特に意識はしていなかったのですが、完成した作品を観ていて、ふとした表情がなんとなく渡さんに似ているなと自分でも感じる瞬間が確かにありました。若いころからずっと渡さんのお芝居を近くで見ていましたからね、それはやっぱりどこか、似てくるんでしょう。

『ゴールデンカムイ』に続く2度目の共演作で改めて感じたこと
舘:彼とはまず『ゴールデンカムイ』の現場が最初でした。僕は常日頃、「俳優という仕事は目が大事」だと思っていたので、眞栄田くんの目力の強さに「やっぱりそうでなきゃね」といううれしさを感じたのを憶えています。
眞栄田:僕は初めて舘さんを近くでお見かけしたときから、「カッコいい…シブい…僕もこんな大人になれるんだろうか…」という想いでした。実際にこうしてお会いしていても、「絶対にこうはなれないよな」という気持ちは変わらないです(笑)。ただ、この物腰の柔らかさ。僕らの世代に対して接しやすい空気感を作ってくださるのはとても素敵で、見習わないといけないなと思いました。
舘:いいんだよ。俺のことなんか見習わなくたって(笑)。
眞栄田:ストーリーに対する想いだったり、セリフや役へのこだわりだったり、ご本人は「そんなの全然ないよ」と仰いますけど、絶対そんなことないです。セリフの一つひとつを監督と相談しながら作っていらっしゃる姿を見ていたので、「そんなの…」と軽く仰るところも含め本当にすごいなと思って。それに、初対面の時には舘さんのほうから話しかけていただいて…。
舘:「僕も、お父さんと同じで東映出身なんだよ」ってね(笑)。会う前から千葉(真一)さんを通じて間接的なつながりがあったわけだし、この機会にお近づきになりたいなと思って。それから何度か一緒に食事をしたり、こうして現場で仕事をしてみて改めて、これが“スター性”というものなんでしょう。「すごく良いものを持っているな」と思っていました。

伝説のキャメラマンと若手監督と過ごしたロケ現場
舘:木村大作さんとお仕事をご一緒したのは今回が初めてでした。ただ、2人ともそれぞれ別の作品で何度も渡さんと仕事をしてましたから、大作さんは「俺も舘さんも、渡さんの舎弟だからな!」なんて仰っていました。実際本当にそんな感じなので、とてもいい機会になりました。
眞栄田:藤井監督と大作さんが意見をぶつけ合っているところに舘さんが「まぁまぁ…」と割って入るような光景を何度か見て、「きっと昔の映画の現場でもこんなことがあったんだろうな…」と思っていました。
舘:そういうこともあったね(笑)。
眞栄田:現場のみんなで生き生きしながらやっていたという印象です。
舘:大作さんのような大ベテランがいる一方で、藤井監督のような経歴の若い監督がいて。僕が今まで仕事をしてきた監督は長く助監督をやっていた方が多かったから、彼のような若い人と仕事をする機会はすごく珍しい。彼の、俳優に対するアプローチの仕方やキャメラマンとのコミュニケーションの取り方に対してとても新鮮さを感じました。「これが今の監督のやり方なんだ」と。
眞栄田:柔軟に対応してくださるところと、こだわりが強いのでここは譲れないというところの両方がありました。すごくこちらのことを見て、それを生かしてくださって、とてもやりやすかったです。
(2ヶ月間にわたった能登でのロケでは撮影が中止になるほどの大雪になることが何度もあった。かつて『八甲田山』(1977年)や『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年)でキャメラマンを務め、自らも監督として『劒岳 点の記』(2009年)を生んだ木村大作は、本作でも容赦なく吹き付けてくる激しい雪を見事に収め、クライマックスを盛り上げている。そのなかで、ひとつ大きな事件があった)
舘:「これは二度と撮れないだろう!」といういいシーンがあったんです。演技も、自然も、タイミングも、あらゆるものすべてが神がかっていました。でも、メインのキャメラにトラブルが起きていて、大事なところが撮れていなかった。スタッフやプロデューサー側としては、「リテイク(再撮影)するしかない」ということで決まりかけていて、僕も覚悟していました。そうしたらその日の夜、宿舎に大作さんが来てくれて、「少し離れたところで同時に回していたキャメラのフィルムをブローアップ(画面の一部を引き伸ばして拡大すること)すれば大丈夫だから」と。それで奇跡的な瞬間をこの映画の中に残すことができた。これがデジタル撮影で、データのトラブルだったらどうにもなりませんが、フィルム撮影だったおかげで大切なシーンをどうにか救出することができたんです。

12年ぶりの対面シーンを演じるときに考えたこと
舘:歳は離れているんだけど、幸太と三浦はある意味で、“傷ついた男同士”みたいなところがあって、きっと彼の未来に自分自身を託すような気持ちでいたんでしょう。
眞栄田:ある時、舘さんが僕の役について「幸太が三浦にとっての“ひかり”だったのかな」と仰ったことがあって。逆に、僕は僕でおじさんのことを“ひかり”だと思って演じていたので、あの場面はお互いの複雑な気持ちが混じり合う瞬間だったのかなと思っています。
舘:幸太は子どもの頃、三浦の顔を見ていないですから、12年ぶりのシーンは初対面とも再会とも違う、不思議な、こみ上げてくる感情が抑えきれないような…。三浦としては幸太のことをずっと陰で見守っていればいいと思っていたのに、幸太が自ら三浦を探し出すことで、その関係が変わっていく。
眞栄田:ご一緒した場面は演じていて、子どもに返ったような気分でした。
(撮影は2023年の12月中旬まで行われ、劇中では舞台となった輪島市の大沢漁港の全景がしっかりと収められている。能登半島地震が起こったのはそれからまもなくの2024年1月1日。地震によって地形が変わり、港は船が入れなくなるほどの大きな被害を受けた)
眞栄田:幸太にとってあの村は、あまり幸せでない少年時代を過ごした場所ということで、大人になっても複雑な感情のある土地だと捉えていました。そのなかに、おじさんとの大事な記憶もあって、いろいろなものがこの場所で交わっている。
舘:たしかにあの土地にご縁のある方にとって、地震によって失われた風景を映画で観るのはつらいかもしれません。ただ、その風景は一瞬の場面ではなく、1本の映画の舞台として土地のもつ雰囲気や情緒がそのまま映画になって残っているわけですから、それはそれで意味のあることなのかなと思います。その意味を、映画を観ながらじっくりと考えてもらえたらうれしいなと思います。
眞栄田:大作さんが撮影された画を後で拝見したら、漁村の風景がとても情緒のある雰囲気に感じられて、僕の気持ちともうまくマッチしていたように思います。
舘:まだまだ復興の最中だと思いますが、この映画を通じて少しでも恩返しができたらいいですね。ぜひ観ていただきたいです。
『港のひかり』公開記念で舘ひろし出演作を特集放送!
舘ひろし主演作『港のひかり』の11月14日(金)の公開を記念して、東映チャンネルにて出演作を特集放送。舘ひろしが定年を迎えた元エリートサラリーマンを演じた内館牧子のベストセラー小説の映画化『終わった人』や松田優作と共演した映画デビュー作『暴力教室』、初主演作の『男組 少年刑務所』など全8作を放送する。『港のひかり』とあわせてチェックしよう!

PROFILE
舘ひろし(HIROSHI TACHI)
1950年生まれ。1976年に俳優デビュー。歌手としての活動とも並行して「あぶない刑事」シリーズ(1987年~)のドラマと映画をはじめ、数多くの作品に出演。その他の出演作に『終わった人』(2018年)、『アルキメデスの大戦』(2019年)など。さらに眞栄田との共演作『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』が2026年公開予定。
眞栄田郷敦(GORDON MAEDA)
2000年生まれ。2019年に俳優デビュー。『東京リベンジャーズ』(2021年~)シリーズなど、ドラマ・映画など幅広く出演。その他の出演作に『彼方の閃光』(2023年)、『ブルーピリオド』(2024年)など。今年は『カラダ探し THE LAST NIGHT』が公開中のほか、NHK連続テレビ小説「あんぱん」にも出演。
港のひかり
11月14日(金)全国公開
【監】藤井道人【出】舘ひろし、眞栄田郷敦、尾上眞秀、黒島結菜、斎藤工、ピエー ル瀧、一ノ瀬ワタル、MEGUMI、赤堀雅秋、 市村正親、 宇崎竜童、 笹野高史、 椎名桔平(ほか)
あらすじ
過去を捨てた元ヤクザの漁師と目の見えない少年との十数年を描く、年の差を超えた友情と再会の物語。2010年代初頭、日本海を臨む小さな漁村に暮らす三浦(舘ひろし)は、漁師で日銭を稼ぎながら細々と生活していた。ある日、通学路で白い杖をついて歩く少年・幸太(尾上眞秀)を見かける。孤独な幸太にどこか自身の姿を重ね、いつしか年の差を超えた特別な友情を築いていく。
終わった人
11月1日(土)後9.00~11.30 【再】=8・14・24
東映チャンネル
公開年・監督・キャスト
18年【監】中田秀夫【出】舘ひろし、黒木瞳、広末涼子、臼田あさ美、今井翼、田口トモロヲ、笹野高史、ベンガル(ほか)
地獄の天使 紅い爆音
11月7日(金)後8.30~10.00 【再】=14・24
東映チャンネル
公開年・監督・キャスト
77年【監】内藤誠【出】内藤やす子、入鹿裕子、舘ひろし、小野進也、森下愛子(ほか)
暴力教室
11月7日(金)後10.00~11.30 【再】=15・24
東映チャンネル
公開年・監督・キャスト
76年【監】岡本明久【出】松田優作、舘ひろし、安西マリア、丹波哲郎、小畠絹子、室田日出男、安部徹、クールス(ほか)
薔薇の標的
11月6日(木)後8.00~10.00 【再】=14・28
東映チャンネル
公開年・監督・キャスト
80年【監】村川透【出】舘ひろし、今井健二、佐藤慶、内田良平、中島ゆたか、本間優二、松田優作(ほか)
皮ジャン反抗族
11月15日(土)後6.00~7.30 【再】=24
東映チャンネル
公開年・監督・キャスト
78年【監】長谷部安春【出】舘ひろし、夏樹陽子、森下愛子、加藤大樹、片桐竜次、秋山敏和(ほか)
男組 少年刑務所
11月2日(日)後4.30~6.00 【再】=15・26
東映チャンネル
公開年・監督・キャスト
76年【監】岡本明久【出】舘ひろし、神有介、谷隼人、竹井みどり、大関優子(ほか)
素浪人無頼旅
11月16日(日)後6.00~8.30 【再】=25
東映チャンネル
公開年・監督・キャスト
91年【監】江崎実生【出】舘ひろし、渡哲也、片平なぎさ、神田正輝、南野陽子、若林豪、竹脇無我、中村嘉葎雄、佐野浅夫(ほか)
素浪人無頼旅Ⅱ
11月16日(日)後8.30~10.30 【再】=26
東映チャンネル
公開年・監督・キャスト
92年【監】舛田利雄【出】舘ひろし、増田恵子、井上順、峰岸徹、芦川よしみ、南野陽子、中丸忠雄、鈴木瑞穂(ほか)
『港のひかり』の予告編をチェック!
Photo:平野司/Text:真鍋新一/Hair&Make:岩淵賀世/Styling:中村抽里/衣装協力:ジョルジオ アルマーニ(舘ひろし)/Hair&Make:MISU(SANJU)/Styling:MASAYA (PLY)(眞栄田郷敦)